ひょんなきっかけで、姉との関係が再燃した。いや、きちんと始まったのかもしれない。
おれが中一で、姉さんが中三のとき、面白がって保健の勉強みたいにして裸を見せ合ってさわったりしていたとき、挿入してしまったことがあった。
おれは精通があったばかりだったけれど、むけていなかったし、勃起しても小さかった。だから姉さんも、そういうことになる心配なんてしないで遊べたんだと思う。
そのときは、あれあれと、事故みたいな具合に挿入があって、おれは射精した。対面座位の格好だった。
おれも姉さんもおたおたして、けっきょくそれ以降は裸でくっついたりはしなくなった。
でも忘れたわけじゃない。おれたちは、間違いなくお互いの童貞と処女を交換しあったんだ。
おれのうちは、広い意味での「芸能」関係の家で、両親たちは同業同士、姉さんもおれも、学校でそっち方面のことを勉強し、卒業してからも同じ業界で働いてきた。
もう少し細かく言うと、姉さんはひと前に出る仕事で、おれは裏方のほう。
業界は、セックスのほうも、わりあいオープンというかフランクなところで、おれたち姉弟は早熟ではなかったけれど、少し大胆だったのだと思う。
働きだしたときにおれは家を出た。姉さんも先に独立していた。姉さんとはときどき一緒の「現場」で働いたこともある。
大きなパーティでもときどき出くわしたし、その二次会に流れで一緒に飲みに行ったこともあった。
だから、姉さんがいまどんな男とつきあっているかなんて話も、自然に耳に入ってくる。
おれが二十八で、姉さんが三十になった年、おれが仕事で京都に行ったときに、ちょうどホテルに着いたころに電話があった。
「いまどこ?」
「京都」姉さんは、おれの仕事の予定も知っていたはずだ。
「わたしもなんだ。久しぶりにご飯食べない?」
「仕事はきょうで終わったんじゃなかった?」
「だから、空いてるの。なんとなくもう一泊することにした」
「いいよ。まかせる」
「和食の店に行こう」
姉さんは先斗町にある店を指定した。ときどき行く店だという。
姉さんは先に行っていた。鴨川が見える奥の席。おれを見て姉さんは手を振ってきた。
姉さんはちょっとひと目をひく容姿だ。男性客のグループが、姉さんをちらちら見ていた。
日本酒で乾杯した。
「半年ぶり?」と姉さんがおれを顔を見つめながら聞いてくる。
「そのくらいだね。こんどの仕事、どうだったの?」
「よかったよ。あんたは、明日から?」
どうでもいいような世間話をして、食事が少し進んだ。姉さんの顔がほんのりピンクになってきた。
「別れたんだって?」と姉さんが言う。それまでつきあっていた彼女とのことだ。
「うん」
「本気だったでしょう」
「まあ、でもしかたがない。姉さんは?」
「穏やかなものだよ」
ということは、同業の彼氏とつきあいを続けているってことか。でも、仕事が終わったのに、一刻も早く東京に帰って会いたいわけでもないんだ。向こうも仕事が忙しいひとだろうけど。
お互いの仕事の話とかをあたりさわりなく話して、ときどき姉さんはスマホを見た。たぶん彼からの連絡を待っていたのだろう。
途中で姉さんは窓の外を見て言った。
「キスしてるひとがいる。外国人かな」
おれも視線の方向を見た。遊歩道で抱き合ってキスしているカップルがいた。白人観光客みたいに見えた。
食事が終わったころには、姉さんは少し酔っている雰囲気だった。
店を出るとき、よろめいたのでおれが支えた。姉さんを真正面から受け止めるような格好だ。
姉さんは立ち直ってから、おれに腕をからませてきた。
「こういうの、いや?」
「いいよ。ホテルに送るね」
「それって、礼儀正しすぎないか」ちょっと乱暴な口調になった。子供のころみたいな。「もう一軒行きましょうって言ってもいいのに」
「姉さん、酔ったよ」
「もう少し一緒にいてよ。もう飲まないから」
木屋町に一軒、知っているバーがある。静かな、落ち着いたところだ。そこに行こう。
路地に入って、木屋町通のほうに出ようとした。ふたり並んでは歩けない細い路地だ。奥のほうで、カップルが抱き合ってキスしていた。
おれたちの足音で、そのカップルはあわてて身体を離して、木屋町通のほうに出ていった。
姉さんが足を止めた。おれも足を止めた。
姉さんがおれを見上げて、いたずらっこみたいな顔になって言った。
「わたしたちもしよう」
姉さんは目をつぶって、唇を突き出してきた。姉さんに恥をかかせるわけにはいかない。
おれは左右を見てからさっと姉さんにキスした。
「もっと」と姉さん。
おれがもう一回唇をつけると、姉さんはおれの身体を抱き寄せ、おれの唇を割って舌を入れてきた。
少しの間、姉さんが舌をからめてくるままにした。
ひとの声がしたので、姉さんはやっと唇を離した。路地に入ってきたカップルが、すぐに戻っていった。
姉さんが言った。
「何年ぶりだろ。思い出してしまった」
おれもいやおうなく思い出した。不完全燃焼だった初体験のこと。
「オトウトは、いまでも清潔だね。感じのいいキスができる」
前にキスなんてしたっけ?
「おれはまだ何もしてないけど」
「まだ何もしていない。だけど、これから、何かする。もう一回キスする?」
「バーに行くんだよ」
姉さんは、ぴったりおれにくっついてきた。
「もっとキスしたくなった。したくない? 無理?」
おれもしたくなっていた。
ただ、子供のころは、ほんとに姉さんとはベロキスしたこともない、と思う。忘れたのかなと思ったけど、それを言うと姉さんに失礼な気がした。
「したくないわけじゃないけど」
「できるとこに行こう」
おれがとまどっていると、姉さんはささやくように言った。
「あのときのこと、きちんとしない? わたしたち、あそこで終わったんで」それから姉さんは妙に硬い言葉を使った。「性的にノーマルに成長できなかったんだ」
「できなかったの?」
「そういう自覚はあるんだ。オトウトは、健全に育った?」
おれは笑った。思い当たることはある。
「ねじくれた」
「ほら。今晩、きちんとしよう」
姉さんはそのつもりだ。おれも乗り気になってきた。どっちみち一線はとうに越えているんだし。
「姉さん、酔って言ってるんじゃなければ」
「酔ってないし、わたしの部屋、ツインだよ。彼氏、来なかったから。泊まれるよ」
姉さん、けっこう悲しい夜だったんだとわかった。
「もしいやだったら、添い寝してくれるだけでもいい」
「行くよ」
姉さんはコンビニに入ったけれど、飲み物のほかにコンドームも買っていた。それを知ったのは、ホテルに着いてからだ。
部屋に入ってから、服を着たまま、長いキスをした。
姉さんは、唇を離してから言った。
「オトウトとは、キスだけでも興奮する。どうして、しないことにしていたんだろ。どうして、あのあと、しなかったの?」
「姉さんがいやがっていると思ったから」
「よくわからないまま、してしまったからね。そこまでいくとは思っていなかったから、びっくりしたもの」
「おれは、いろいろけっこうひきずった」
「オトウトが冷たくなったって思ってた。わたしのせいで」
「早く誤解を解くべきだったかな」
「これから、誤解を解こう。またお風呂で、洗いっこしよう。チューしてあげる」
姉さんは、おれのズボンの上から、チンコのところをさわった。おれは硬くなりだしていた。チューするというのは、フェラのことかもしれない。
子供のとき、姉さんはチンコの先だけなめてくれたことがあったけど、あれはフェラのうちには入らないと思う。
姉さんはさっと服を脱いだ。下着は上下とも黒だった。
下着を脱ぐとき、姉さんは恥じらった表情を見せた。おれはぶるんと欲情した。
姉さんと、きょう「ほんとに」することになるんだ。
バスには姉さんが先に入った。呼ばれてからおれも入り、バスタブの中で立ったまま、お互いの身体を洗いあった。姉さんの陰毛は記憶よりも濃くなっていた。縦ラインの上に逆三角に生えていた。
姉さんはしゃがみこんで、おれの大きくなったチンコを握ってまじまじと見た。
おれはちょっと身体を引いた。
姉さんはおれを見上げて言った。
「どうしたの?」
「恥ずかしい」
「わたしたち、初めてじゃないんだよ」
「初めてに近いよ」
「なつかしくない?」
「ずいぶん時間がたってるし」
姉さんはまたチンコを見てから言った。
「大人になったね」
「姉さんがしてくれたんだ」
「それ、うれしいと言ってくれてるの?」
「うん」
「放っておいてごめんね」姉さんはおれの亀頭に軽くキスした。「でも、オトウトも冷たかったんだからね」
ベッドに移って、お互いの身体を愛撫した。姉さんの下腹から恥丘に手を這わせ、そこに指を入れた。姉さんは濡れていた。あのときは、姉さんがこんなに濡れていたという記憶はない。というか、そんなこと確かめたかな。
姉さんが、少し感じているような声で言った。
「わたし、いやな体位もあるんだ。きょう、どうしたい?」
「正常位は?」
「いいよ。自分が上に乗るのは好きだ」
「姉さんにそうされるの、夢見た」
「ほんと?」
「ずっと」夢精したこともあるくらいだ。
「してあげる。最後も正常位でして」
「うん」
姉さんはおれのチンコを左手で握ると、おれの胸から腹へとなめていった。尻をおれの身体から離していって、腿がおれの顔の横にきた。
姉さんが何をしようとしているかわかった。おれは仰向けの格好から、身体の左側を下にして、横になって寝る姿勢を取った。おれの目の前に、姉さんの陰部がきた。ふたりとも横になったシックスナインのかたちだ。
おれは姉さんの腿のあいだに顔を入れた。姉さんがおれのチンコをくわえた。おれは姉さんのそこに舌を入れた。
姉さんのフェラは、そんなに激しいものじゃなかった。かわいいものを、大事にペロペロしている感じ。おれも、大事な姉さんを傷つけないように、という気持ちで舌を使った。
やがて姉さんは、おれから口を離して、ああ、と大きな声を上げた。
おれは舌を止めて、姉さんが何か言うのを待った。姉さんはいったんおれから離れると、頭をまた枕の上に置いて仰向けになった。
おれは姉さんにキスして、唾液を吸い取った。
姉さんの目がとろりとしている。
「来て」と、姉さんが言った。
おれは姉さんの足のあいだに入って、姉さんを見つめた。
姉さんは照れたように言った。
「そんなに見ないで。一応は恥ずかしいんだから」
「初めてじゃないんだよ」と、おれは姉さんがさっき言った言葉を口にして、チンコを姉さんのそこに何度か擦りつけてから挿入した。
姉さんはまた吐息をもらした。
そのうち姉さんがおれにしがみつくように両腕と両足を巻きつけてきて言った。
「姉さんって呼んで」
「姉さん、でいいの?」名前を呼ばなくてもいいのかと聞いたんだ。
「姉さんって呼ばれるほうがいい」
「姉さん」
「いい。それ、いい。あんたは?」
「名前でいいよ」
「オトウト、いいよ。もっと激しくてもいいよ」
「こう? 姉さん」
「そう。キスして、オトウト」
ベロキスしながら、激しくした。
姉さん、って呼びながら姉さんとするのは、おれにとっても背徳感があって、刺激的だった。
次の朝、姉さんと一緒に部屋を出るとき、姉さんが聞いた。少し不安そうな目の色だった。
「こうなって、まずいことしたと思っていない?」
「そんなことないよ。夢がかなったと思ってるのに」
「姉さんも、これ、終わりにしたくないんだ」姉さんはおれの胸におでこをつけてきた。「この先どうなるものでもないけど、会おうね」
すがるような言い方だった。おれは思わず姉さんを抱きしめていた。
「うん。仲のいい姉弟でいたいな」
「昨日みたいに?」
「あれを含めて」
姉さんはおれを見上げ、微笑した。
「こんど、よかったらオトウトのところに行かせて。何かおいしいものを作ってあげる。それから、いっぱいしよう。いままでしなかった分まで」
その情景を想像して、返事が遅れた。
「うんって言え」姉さんは言った。「そこでためらうんじゃないの」
「うん」
「姉さん、ほんとのことを言うけど、昨日のオトウトとのセックスほど幸せなセックスって、したことがなかった」
おれは目を丸くした。
「おおげさじゃない?」
「信じないんだね。いいよ」
「おれ、そんなにうまくないから」
「テクニックのことなんかじゃないよ」
「ごめん。だけど、おれも最高だった」
「大事にしよう」
「うん」
こうしておれと姉さんの仲は、復活、再燃。十五年ぶりだったことになるのかな。それから一カ月に一回ぐらい会うようになっている。
姉さんに引っ張られて、姉さんの関係者がよく来ているというバーに行ったことがある。
その夜も何人か姉さんの知り合いが来ていて、そのひとたちに姉さんは、弟です、とおれを紹介した。それからカンウターで飲んでいるあいだ、姉さんは、手を握ったり、突ついたり、スキンシップをしてきた。
最後はしなだれかかり、店を出るときは、おれに腕をからませてきた。
「あれって、よかったの?」って、おれは店を出てから姉さんに聞いた。
「どうして?」
「近親相姦してるって思われたかも」
「してるじゃない」
「ひとに知られたら、まずいでしょ」
「いいの。あの姉弟、仲がよすぎると思ったって、まさかしてるとまでは思わない」
それから教えてくれた。
「別れた彼氏が連れていってくれた店なの。カッコいい弟と来てたって耳に入れば、それはそれでいいし」
なんか利用されたのかという感じもしたけど。
「変な噂が立つかもしれないよ」
「じゃ、お互いにセフレ作ろうか。ふたりとも、結婚しちゃってもいい」
「そんなに簡単なことじゃないと思うな」
「両方が結婚したって、姉弟の絆のほうがずっと強いよ。絶対でしょ?」
たしかにそうだ。でも、しばらくはおれは結婚はしないだろうな。姉さんがするのを止めることはないけど。